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TARO SINGAPORE REPORT

Artyzen Singaporeアートに囲まれて過ごす、ブティックホテル

アルティザン・ホスピタリティ・グループにとって、グレーター・チャイナ域外への初進出となるシンガポールで都市型ブティックラグジュアリーを提案する「Artyzen Singapore」を、TAROが独占GMインタビューを交えて紹介します!
Queninoの一皿
金納ななえ©
Artyzen Singapore外観
「Vertical Oasis(垂直型オアシス)」として親しまれているArtyzen Singapore Artyzen©
FEATURE

アルティザン・シンガポールデザイン、ストーリーテリング、そして新たなブティックラグジュアリー


シンガポールのラグジュアリーホテル市場において熾烈な競争が続くなか、Artyzenは業界に静かながらも確かな存在感を示している。開業わずか2年にして、Capella, Four Seasons, Mandarin Orientalといった名門ホテルと肩を並べ、2025年度の「One Michelin Key」を獲得。さらに館内レストランQueninoも「Michelin Selected Restaurant」に選出されるという快挙を成し遂げた。

昨年5月より総支配人を務める、オランダ出身で、4大陸にわたる30年以上のキャリアを持つマルセル・ホルマン氏に、ホテルの哲学、食への思想、建築ビジョン、そしてホスピタリティの未来について話をうかがった。

INTERVIEW

Artyzen Singapore GM Marcel N. A. Holman 氏

Marcel N. A. Holman氏と金納ななえ氏

Q:ホスピタリティ業界で30年以上のご経験をお持ちですが、これまでのキャリアの歩みと、アルティザン・シンガポールに着任された経緯についてお聞かせください。

私はオランダで生まれ、同国でホテルおよびタウンマネジメントを学びました。キャリアはベルギーでのマネジメントトレーニーから始まりました。地理的には近い両国ですが文化の違いに強い関心を抱き、国際的な環境で働きたいという思いが一層高まりました。当時は海外移動が現在ほど容易ではありませんでしたが、ニュージーランドの居住権を取得し片道航空券で移住。これが初めての海外でのホテル経験となり、F&B部門からキャリアをスタートし、アシスタントディレクターまで昇進しました。

その後オーストラリア勤務を経て、中国市場の成長に関心を持ち、1996年に成都へ移りました。カルチャーショックもありましたが、初のホテル開業に携わるなど貴重な経験となりました。以降、中国各地で開業プロジェクトに関わり、中東でラグジュアリーホスピタリティ分野を経験した後、再びアジアへ戻りました。中国本土、台湾、香港、シンガポールで総支配人として開業やリポジショニングに携わってきました。

Artyzen開業当初からその存在に注目しており、明確なストーリーとアイデンティティを備えた点に強く惹かれました。着任して約7か月、40室の小規模ホテルならではの密接な連携と強い仲間意識に日々刺激を受けています。チームワークと共有された目的意識こそが、優れたホスピタリティを支える基盤だと考えています。

Q:Artyzenは最近Michelin Keyを受賞されたとのこと、誠におめでとうございます。この評価は、御社のサービス哲学やアプローチをどのように反映しているとお考えでしょうか。

ミシュランキーを受賞する以前から、当ホテルのレストランはすでにミシュランの評価をいただいていました。いずれの栄誉も、私たちの取り組みに対する力強い証しだと受け止めています。評価の対象は単なるデザインや設備ではなく、私たちが提供している体験そのもの……すなわちサービス、細部への配慮、そしてゲストとの感情的なつながりにあると考えています。

私はよく、美しいホテルを建てること自体は比較的容易だとお話ししています。十分な投資があれば、外観やハード面で印象的な施設をつくることは可能です。しかし、本当に難しいのはホテルの「魂(soul)」を創り上げることです。それはチームであり、文化であり、ゲスト体験そのものです。

当ホテルでは、朝のブリーフィングで売上や数値を最優先に議論することはありません。まず話題にするのは、その日に到着されるゲストについてです。誕生日を迎えられる方がいらっしゃるのか、初めてのご滞在か、あるいはリピーターなのか。前回の滞在で何か課題があった場合には、それをどのように改善できるかをチームで共有します。常に焦点を当てているのは、一人ひとりのゲストのジャーニーです。

こうした細部への配慮とパーソナライゼーションこそが、ミシュランキーのような評価につながっているのだと思います。また、開業からわずか2年で、シンガポールにおける数少ない独立系ホテルとしてこの栄誉を受けたことを、大変誇りに感じています。最終的に、この賞はチームのものです。

現代のホスピタリティにおいて重要なのは、感情であり、つながりであり、そしてゲストにどのような気持ちを抱いていただけるかという点に尽きるといえるでしょう。

Q:Artyzenの哲学は「エモーショナル・ウィズダム(感性知)」とアジアのヘリテージに根ざしていると伺っています。これらはシンガポールでのゲスト体験に、どのように反映されているのでしょうか。

当グループは現在約17軒のホテルを展開しており、本ホテルはグレーター・チャイナ以外では初めての施設となります。そのため、東南アジアへの展開を進めるうえで非常に重要なプロジェクトと位置づけています。グループの方針として、物件は自社で開発・所有することを基本とし、品質とブランドDNAを完全にコントロールできる体制を重視しています。

デザインコンセプトは、この土地の歴史と東南アジアのアイデンティティに深く結びついています。かつてこの地に建っていたヴィラ・マリアはプラナカン様式の邸宅であり、鮮やかな色彩、質感、モチーフなどの文化的影響は、館内の随所で現代的に再解釈されています。

緑豊かなロビー空間
Cafe Quenino 金納ななえⓒ
Queninoのメニューカード
カラフルなプラナカンのアート 金納ななえⓒ

シンガポール自体が熱帯の緑豊かな都市であることから、植栽や庭園もデザインの重要な要素となっています。建物全体に植物やグリーンを取り入れ、没入感のある豊かな環境を創出しています。

客室は温かみのある色調を基調とし、アジア文化に着想を得たアートを現代的に表現しています。文化的な奥行きを備えた快適なラグジュアリー空間づくりを目指しています。

客室
温かみのある色調とアジア文化に着想を得たアートで構成された客室 Artyzen©

食の要素もまた、私たちのアイデンティティの中核です。Café Queninoでは東南アジア料理やプラナカン料理を提供しています。単なる季節プロモーションにとどまらず、著名なローカルレストランや老舗ブランドと協働し、選び抜かれたレシピを期間限定でメニューに取り入れています。提供期間は数週間から数か月に及びます。

この取り組みによって、シンガポールの食文化遺産を紹介すると同時に、地域ブランドの支援にもつなげています。

メインダイニングのQueninoでは、東南アジア料理をよりコンテンポラリーに再解釈したメニューを提供しています。すべてのダイニングにおいて、デザイン、料理、ストーリーテリングが一体となり、東南アジアの世界観を体現しています。

Queninoのデザートプレート
ストーリーテリングを重視するQueninoの一皿 金納ななえ©
Queninoのメニューカード
料理の背景を伝えるイラスト付きメニューカード 金納ななえ©
Queninoのデザートプレート
Artyzenⓒ
Queninoのメニューカード
Artyzenⓒ

Q:シンガポールのラグジュアリーホテル市場は競争が非常に激しいといわれています。その中で、アルティザンは老舗ホテルや新規参入ホテルとどのように差別化を図っているのでしょうか。

シンガポールは非常に活気があり、ダイナミックな市場です。シンガポール政府観光局(STB)がイベントや来訪者誘致を強力に推進しており、業界全体にとって大きな追い風となっています。各ホテルにはそれぞれのニッチや個性があり、近隣の施設と競合する側面はありつつも、多様な体験を提供するという意味では相互補完的な関係にもあります。

当ホテルにとって、オーチャード・ロードに近接した立地は大きな強みです。主要なショッピングおよびエンターテインメント地区まで徒歩圏内でありながら、やや離れた静かで緑豊かなエリアに位置しています。そのため、都市とのつながりを保ちつつ、落ち着いた環境を実現しています。

実際、多くのゲストが滞在中に複数のホテルを利用しています。たとえば滞在の一部を当ホテルで過ごし、別の期間をセントーサ島で過ごすといった動きも見られます。シンガポールは都市がコンパクトで交通網も整っているため、こうした滞在スタイルが可能となっています。

私たちの差別化要因は、デザイン、食、サービス、そしてストーリーテリングが有機的に結びついた統合的なエコシステムにあります。この水準の一貫性と統合性を備えたホテルは、決して多くはありません。

屋外テラス
Artyzen©

Q:シンガポールの国家観光戦略では、サステナビリティ、イノベーション、人材育成が重視されています。これらの方針に対し、ホテルとしてどのように対応されているのでしょうか。

シンガポール政府は、研修プログラムや補助金、知見共有の取り組みなどを通じて、業界に対し手厚い支援を提供しています。当ホテルもオーチャード・ロード・ビジネス・アソシエーションなどの団体と連携し、こうした制度の恩恵を受けています。

人材不足は、ホスピタリティ業界における世界的な課題です。そのため、私たちは運営の在り方を柔軟に見直していく必要があります。テクノロジーは課題解決を支える有効な手段となりますが、導入には慎重な判断が求められます。たとえばロボットは一部の環境では有効ですが、すべての場面に適しているわけではありません。

ラグジュアリーホスピタリティにおいては、人と人との直接的な関わりが依然として不可欠です。テクノロジーは人に取って代わるものではなく、スタッフを支援する存在として活用すべきであり、効率性を高めつつ、ゲスト体験の質を維持・向上させる役割を担っています。

また、シンガポールのビジネス環境は極めて整備され、透明性が高い点も大きな特徴です。この明確さが投資やイノベーションを後押しし、ホテルが安心して運営できる基盤となっています。

Q:ダイニングコンセプトを従来のファインダイニングではなく「ファンダイニング(fun dining)」と位置づけていらっしゃいます。この考え方は、変化するゲストの期待をどのように反映しているのでしょうか。

ファインダイニングは現在も進化を続けています。従来型の体験を求めるゲストがいる一方で、よりリラックスしたインタラクティブな体験を好む方も増えています。私たちの目標は、市場のニーズに応えていくことです。

Café Queninoはよりカジュアルなスタイルで、朝食から夜まで営業し、夜にはカクテルを中心とした空間へと移行します。一方、Queninoではより実験的なアプローチを採用しています。すべての料理にはストーリーがあり、サービスチームとシェフが一体となり料理を紹介します。形式張ったものではなく、学びの要素を含みながらもリラックスした体験を提供することを目指しています。

また、ゲスト同士のインタラクションも重視しています。手で食べたり、ゲスト自身が仕上げを加えたりする料理も用意し、食を通じてパーソナルな記憶や会話が生まれるよう設計しています。ベジタリアン料理についても、見た目をメインメニューと揃えることで、すべてのゲストが同じ体験を共有できるよう工夫しています。こうした細やかな配慮が、体験全体の価値を大きく高めていると考えています。

Q:本ホテルは「ヴァーティカル・オアシス(垂直型オアシス)」と表現されています。このアイデンティティは、建築やライフスタイルデザインによってどのように形づくられているのでしょうか。

東南アジアへの展開にあたり、当社は戦略的にシンガポールを選びました。日本における東京と同様に、シンガポールは地域への自然なゲートウェイといえる都市です。ただし、オーチャード・ロード近辺で理想的な敷地を見つけるには時間を要しました。中心性と独自性の双方を備えた立地であることが求められたためです。

このエリアでは土地が限られているため、建築は垂直方向に展開する必要がありました。しかし結果として、これは大きな利点となりました。上層階からは都市の広がりを一望でき、天候が良ければマレーシア方面まで見渡すことができます。

建物には、熱の侵入を抑える特殊ファサードや、建物全体の温度を下げる役割を果たす豊富な植栽など、サステナビリティを意識した設計が取り入れられています。

すべての客室にはバルコニーまたはガーデンテラスが設けられており、都市型ホテルとしては希少な屋外空間を楽しむことができます。こうした建築的要素に加え、ダイニングやウェルネスの提供を組み合わせることで、単なる宿泊施設にとどまらない、包括的なライフスタイル環境を形成しています。

Q:現在のホスピタリティ業界は非常に活気と創造性に満ちているとおっしゃっていました。特にメディアやストーリーテリングの観点から、今後どのように進化していくとお考えですか。

率直に申し上げて、この業界は非常に活気に満ちています。さまざまな動きがあり、創造性を発揮できる手法も数えきれないほど存在します。まさに可能性は無限大です。とりわけ現在は、デジタル、写真、ソーシャルストーリーテリングなど、メディアの進化によって、ホテルが自らを表現する手段は、これまでになく大きく広がっています。

ホテルはこうした変化に適応していく必要があります。変化のスピードは施設によって異なりますが、ゲストやオーディエンスが常に情報やコンテンツと接点を持ち、関わっていることを意識する必要があります。当ホテルには、発信すべきストーリーが数多く存在しています。あらゆるディテールが物語と結びついています。

たとえば、ここでご覧いただけるアーチは、かつてこの地に建っていたオリジナルのヴィラ・マリアの一部です。館内を巡ると、色彩豊かなタイルや、プラナカンおよびストレーツ・チャイニーズの文化遺産に着想を得たデザイン要素に気づかれることでしょう。料理の提供においても、こうした文化的な重層性が反映されています。

これらのデザインや文化的なディテールの多くは、ヴィラの歴史に由来しており、私たちはその物語をゲストに積極的に伝えています。

最終的に、人々が求めているのは感情的なつながりです。ストーリーテリングはそのつながりを生み出し、体験をより豊かなものにします。

Q:最後に、チーム内で創造性や目的意識をどのように育んでいるのでしょうか。

私は非常に優れたチームに恵まれています。私のマネジメント哲学はシンプルです。私たちは同じ方向へ進む一つのチームであり、いわばドラゴンボートのクルーのような存在です。肩書きよりもチームワークを優先しています。食器洗い担当であっても総支配人であっても、全員がファーストネームで呼び合い、それぞれが等しく貢献するという考え方を大切にしています。

鍵となるのはコミュニケーションです。オープンな対話を維持し、階層意識を最小限に抑え、課題があれば迅速かつ透明性をもって対応します。とりわけ「聞くこと」が重要です。チームメンバーが安心して意見を共有できる環境があれば、それぞれの個性や創造性が自然と発揮されます。その結果、マネジメントの意思決定の質も高まり、スタッフ一人ひとりの主体性が育まれていきます。

また、リーダーシップは可視化されるべきだと考えています。オフィスの中だけで管理するというスタイルは取りません。現場に立ち、模範を示し、チームと直接関わることで、信頼とモチベーションが生まれます。こうした姿勢の積み重ねが、結果として本質的で意味のあるゲスト体験の創出につながっていくと考えています。

写真クレジット:Artyzen© / 金納ななえ©